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名古屋家庭裁判所 昭和39年(少)2153号 決定 1964年5月11日

少年 K(昭二六・六・二七生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

押収してある証第七号手製両刃ナイフ三丁、第一〇号手製両刃ナイフ一丁、証第一一号手製弾頭一一個、証第一三号手製銃一丁、証第一五号ナイフ用皮サック一本、証第一八号中古空気銃(中折式)一丁、証第一九号刃物サック(皮ひもつき)一個、証第二二号ロープ七本、証第二六号空気銃強丸六五〇個、証第二七号空気銃弾丸五〇七個はいずれも没取する。

理由

(非行事実)

少年は、

(一)  昭和三九年四月○日午後零時四〇分頃、瀬戸市○○町地内通称○○街道において、母親等と通行中の○原○美(昭和二四年一月一九日生)の上衣の袖を握り逝げるのを追つて、同女にだきつき、所持のナイフを同女の胸に突き付け、「ついてこい、ついてこんと殺すぞ」等と申し向け、同女の身体に危害を加える態度を示し、同女を畏怖させて、同所から附近の山林内に強いて同女を連行して略取し、

(二)  同日午後二時三〇分頃、同市○○町○○番地○井○久所有山林内において、前記○原○美の両手を所持のロープ(証第二二号)で縛つて松枝に吊り同女の反抗を抑圧し強いて同女を姦淫し、

(三)  (1) 法定の除外事由がないのに同日前記(二)の場所において、空気銃(証第一八号)および手製銃(証第一三号)各一丁を所持し、

(2) 正当な理由によらないで同日同所において、刃体の長さ約一一糎の手製ナイフ四丁(証第七号、第一〇号)を携帯して

いたものである。

(法令の適用)

(一)の事実、刑法第二二四条

(二)の事実、刑法第一七七条

(三)の(1)の事実、銃砲刀剣類等所持取締法第三条第一項、第三一条第一号

(三)の(2)の事実、同法第二二条、第三二条第一号

(要保護性)

1  少年は、長崎県西彼杵郡○○村出身の者で、郷里の中学校卒業後間もなく集団就職により、名古屋市に来り、精密工具機械製造業有限会社○○製作所に機械工として就職した。少年は、郷里では、魚釣りをしたり小舟を作つたり田舎の生活をしていたところ、都会に出て急に環境が一変した。少年は、所長から馘にすると言われたような気がして気持ちが落着かず、四月○日夜も充分に眠られないようになつて本件非行の二日前就職先を無断家出し、本件非行のあつた附近の山林を徘徊し、遂に非行に及んだ。

2  少年の両親は、郷里で農業を営んでいるが、本件に驚いて郷里からわざわざ当審判期日に出頭した。

3  鑑別所見および医務室技官の検診の結果によると、少年は、昭和三七年五月頃から精神分裂病を発病し、病的過程の進展を示し、自分が馘になるという被害妄想から次第に皆が自分を特別な眼でみているという注視妄想に発展し、自生する観念に支配された無批判な病的行動が本件を惹き起すに至つたものと認められ、現に少年自身に病的不安、焦燥、危機感を生じているが、発病が新しいので強力な治療を行えば事後は良いと思われる。もつとも少年は、警察官の取調べ、調査官の調査、当裁判所の審問を通じ終始自己の行動を追想し、詳細にこれを供述しており、一見常人と大差ないようである。

4  本件は、当時新聞紙にも大きく報道され、人心を不安にした事件であり、その社会的影響は無視できないが、少年の資質から考えて、刑事処分に付するのが相当であるとは認められない。

5  少年を社会から隔離し、医療少年院において、治療措置を講じながら指導と環境の調整を講じることは可能であり、相当であると認められる。

6  よつて、少年に対し医療少年院送致について、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、没取について少年法第二四条二第一項第二号、第二項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 斉藤直次郎)

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